本稿は田中冬二(1894-1980)の最初の詩集青い夜道(第一書房、1929)に現れた詩の世界を研究したものである。分析の対象にした作品は「青い夜道」、「ふるさとで」、「くずの花」、「みぞれのする小さな町」、「鷄小屋」、「秋の夜」、「皿」、「家根に鳶尾科の花の咲いた家」、「村」の9編で、これらの作品を分析した結果、次のような結論が得ることができた。 まず、「青い夜道」、「ふるさとにて」、「くずの花」、「みぞれのする小さな町」には、詩人が幼年を送った越中への懐かしさが流れており、そのような要素が読者に鄕愁を刺激した。「鷄小屋」、「秋の夜」、「皿」には、異郷で銀行員として勤務し、田舎暮らしをしていた冬二の日常から来る悲しみあるいは寂しい心境が込められていた。 何より 「家根に鳶尾科の花の咲いた家」, 「村」 二篇は家根に鳶尾科の花の咲いた家に索麺の糸としろい蝶が家根をこえてとんでいる姿とともに村で行われる麦打ちと夏夜、氷水をたべる味わいが加わり、なぜ冬二が典型的な田園詩人なのか読むことができた。 このように冬二の作品は当時日本に吹き始めた「近代化」という荒い波にさらされず、「郷愁をテーマにした田園詩」を通じて日本人の心を捕らえた。それが今まで多くの評者や読者から好評を受けて人気を享受する要因として作用している。 今後、冬二の詩と韓国の白石(1912-1996)の詩が比較されれば、必ずテキスト中心の作業がなされなければならない。このことは冬二に関するより多くの研究と作品の翻訳が要求されるから、これに関する作業は私をはじめ多くの研究者や翻訳者の役割として残す。