『M/T』は、『同時代ゲーム』の難解さを批判され、それを克服するために書いた作品である。 本稿では、ロマーン․ヤーコブソンが定義した翻訳の観点から、『同時代ゲーム』の書き直しの『M/T』は、『同時代ゲーム』の翻訳として見ることができると論じた。 『同時代ゲーム』では、谷間の村の伝承が正規教育を受けた知識と理性領域の歴史の専門家を通して語られる物語になっているが、『M/T』においては知識や理性とは無関係な懐かしさの感情と情緒で訓練された人物によって書かれる物語に書き直しされている。これはある種、翻訳と見ることができ、この翻訳叙述によって、『同時代ゲーム』の難解さは多少克服されたと言える。 一方、『M/T』には、さまざまな位相のM/Tが登場しており、両作品もまた其々M/Tとして機能している。 『M/T』において、MとTがおのおの独立した個別的な人物でありながら、同時に一組で何かを成し得たように、『M/T』と『同時代ゲーム』は、其々独立したテキストとして存在していながらも、小説としてのM/Tの関係にあると言える。言い換えれば、この二つの作品は、それぞれ個別のテキストでありながら、相互の作品を理解するコンテキストとして機能し、テキストの解釈と鑑賞の範囲を広げる役割をはたしていると見受けられる。 これは、言語間の翻訳においても同じように働き、有効なコンテキストとして機能すると考えられる。