本稿は、類義語である「思い付く」と「考え付く」の出現頻度に大きな差があることに着目し、その差に繋がる要因を、前項と後項間の意味的な相互作用に求めようと試みたものである。 分析は、ヲ格名詞を伴う「思い付く」と「考え付く」を対象とし、語彙的複合動詞「V+つく」の全ての語は、本動詞「つく」の〈基本義〉の影響下にあるという前提のもと考察をすすめた。具体的には、まず、前項「思う」と「考える」、後項「つく」の行為成立に不可欠な必須要素を精査し、次に、複合動詞化に伴い、前項・後項の必須要素がどのように作用し、複合動詞「思い付く」「考え付く」としての意味を獲得したのか、その様相を検討した。 その結果、「思い付く」は異なる必須要素を有する前項と後項の結合により、対象(ヲ格名詞)や時間的な側面において、対応範囲の広い《付加型》である一方、「考え付く」は同傾向の必須要素を有する前項と後項の結合による《強化型》であることを明らかにした。