『朝鮮医語類集』に見られる日本語と韓国語の語彙について、日本語の意味分類、語種と韓国語との対訳様相を中心に考察した。 所収の日本語は、その書名から予見される専門的な医学用語というよりは、むしろ一般生活、衛生上の語彙が多いことを確認した。なお、医学用語だけに限って言えば、人体用語、内科関係の用語が多いことをも見た。語種別に見ると、漢語が8割を占めており、外来語はわずか2語しか見られない。なお、和語には身体語彙が多く、漢語に生理現象や医療関連の抽象的な概念を表す語彙が多いことと対比される。 韓国語との対訳様相については、主に韓国語における漢語の存在と編者鈴木の認知、そして両言語におけるミスマッチを中心に見た。後者については、「身体部位などの誤解」「意味内容の異なり」「2語の組合わせ」「説明型」などに分けて考えることができること、誤謬のない「単純対訳」を始点として対極に「説明型」がある、対訳方法の連続線状で把握できる特徴があることも見た。 所収日本語が漢字表記のみの語彙集という点から日本語資料としてはさほど魅力的ではない面も持ってはいるが、日本語と韓国語との対訳様相からは、対照言語学的な立場から示唆するところがあると言えよう。なお、本稿では紙幅の都合上、取り上げることのできなかった、いわゆる朝鮮資料との比較、近代の他日韓両言語資料との関連性において、有意味な可能性を垣間見た。また、地域性の問題などを含めた韓国語の緒事象もさらに詳しく調べてみる価値があろうかと思われる。