本稿では『古言梯』が後代の仮名遣書に与えた影響について考察した。『古言梯』が古典仮名遣いの普及に大きな影響を与えたことは周知のとおりであるが、具体的に『古言梯』以降の資料のどの箇所にその影響が現れているかまで考察した研究は少ない。 そこで本稿では『古言梯』の誤り(その中でも『古言梯』に由来したと思われるもの)に注目し、それが後代の仮名遣書にも現れているか調査した。もし同様の誤りが確認されるなら、少なくともその資料は『古言梯』の影響を受けていると言えるためである。調査は『古言梯』に収録されている「かがなへ」(考)と 「とのい」(宿直)をもって行なった。 調査の結果、いくつかの資料に『古言梯』と同様に「かがなへ」(考)と 「とのい」(宿直)が立項されていることが確認できた。『古言梯』の誤りを踏襲したため、少なくともこれらの資料は『古言梯』の影響を受けていることがわかる。 ただ、今回の調査結果はあくまでも『古言梯』以降の仮名遣書の流れを把握するにあたって利用できる基準の一つを提示したことにすぎない。『古言梯』以降の資料が皆『古言梯』の誤りまで鵜呑みしているわけではない。誤りを適宜修正したものもある。そのため、今回の調査結果は絶対的な基準にはなれない。本稿で示したものは、ある資料が『古言梯』の影響をどれほど受けているか判別する際に、まず最初に用いることができる印の一つである。