本稿は、『静かな決闘』と『堕胎医』との比較考察により、監督のシナリオ作成方法と作品のメッセージを客観的に究明しようとしたものである。考察の結果をまとめると以下のようになる。
まず、監督のシナリオの書き方の特徴についてであるが、第一に、原作と比較してストーリーを「簡単」「明瞭」に提示していることが分かる。第二に、原作と比較してストーリーを「劇的に」展開させていることが確認できる。第三に、原作と比較して映画のメッセージを「簡単」「明瞭」に提示している。次に、『静かな決闘』が原作『堕胎の』のメッセージをどのように変形させたかについてだが、第一に『静かな決闘』では徹底して原作の「堕胎問題」を排除している。第二に、『静かな決闘』は梅毒に関して人間そのものの教旨の苦悩、つまり欲望と理性との葛藤を描こうとした。最後に『静かな決闘』は原作にない新たなメッセージを含んでいるが、監督は戦後の日本社会で日本人は「理性」を身につけるべきだと指摘する。