『源氏物語』における夕霧と落葉宮の物語は「夕霧」巻を中心に描かれているが、それ以前の「柏木」「横笛」巻では夕霧が落葉宮を訪問する場面が三回描かれている。この三度にわたる訪問は、夕霧にとっての意味がそれぞれ異なるが、二回目以降の訪問で夕霧は落葉宮に対する自分の恋情をあらわにし、二回目の訪問で夕霧は自ら「簀子」に座って応対を受ける行動をする。これは『蜻蛉日記』などの例からすると、求婚者の「居初め」のような行動を夕霧がとったことになり、以降の物語展開を先取りするようなことであったといえる。また「夕霧」巻の「霧」は「露」とともに「涙に濡れる」「濡れ衣を着せられる」というイメージを形成し、この物語で人物たちが互いの心を通わし合うことができず、互いの心を傷つけてしまうことと関係していると思われる。また「夕霧物語」は「まめ人」夕霧の「すくよけ心」が恋に落ちたとき、相手の女君をいかに傷つけ、周囲の人々にいかなる波紋を描くのかを描いている。後見のいない皇女が最後まで自分を守り通すことができず、男君と思いがけない関係を結んでしまうことを「塗籠」という空間を背景にして描き出しているといえる。