本稿は従来段落式絵巻として分類されてきた『源氏物語絵巻』を対象として、その詞書と絵がどのように『源氏物語』のストーリー内容を表現しているのかを考察したものである。
先行研究では、絵巻におけるストーリーの流れや時間表現の問題は、主に絵の画面に限られて考察されてきたきらいであるが、ここでは絵巻という特性に重点をおいて詞書と絵の配置・連繋に注目して考察した。その効果的な分析のため、連続式絵巻である『信貴山縁起絵巻』「延喜加持巻」を取り上げ、その比較・考察を行ってみた。
その結果、『源氏物語絵巻』の詞書と絵の配置・連繋において、部分的に『信貴山縁起絵巻』と同じストーリー展開や時間の流れの表現が見出されており、また『源氏物語絵巻』の各場面は、段落型の場面以外に、連続型・中間型・複合型のように、多様な表現形態によりストーリー展開を具現する様相が確認されたのである。
以上のように、本稿は従来絵巻の区分により看過されがちな『源氏物語絵巻』 本来の特性を再び想起させることにより、本作品の豊かなストーリー表現の方法・様式を的確に把握しようとしたものである。