権力は必ず腐敗するのか。腐敗しない権力は不可能なのか。本稿では、井上ひさし 「吉里吉里人」の政治的想像力を極大化した実験を通して、民主主義的な装置と制度の意義と代案を考察した。
政治は腐敗しやすい。権力が腐敗しないためには、つまり民主的であり続けるには、どうすべきか。権力が集中し、固定するのを防がなければならないだろう。「民主的」であるのと最も緊密な関係にあるのは「直接」民主主義や「秘密」投票よりも、実は「籤引き」システムであることを柄谷行人は力説したことがある。この発想に近いのが、吉里吉里国の大統領「タッチ制」であった。重要なのは、権力の腐敗を許容しない制度を作ることである。
これに加え、民主主義において最も重要な要件はまた何があろう。代議制民主主義のように、近代国家体制のもとで当たり前のことと考えられてきたものへの問いを投げかけてみる必要がある。「吉里吉里人」の作家は、独立の成功にして終わることのできる話をあえて失敗にして、小説の幕を下ろした。民主主義を守り続けるために最も必要なのは、民主主義そのものについて絶えず問い、より良い民主主義を作っていこうとする姿勢にあることを、このように「吉里吉里人」はそれとなく気付かせてくれる。