本稿は、日本を代表する保守派と改革派といわれる新聞がそれぞれ同一のテーマについて実際にどのようなスタンスを取り、どのような言語表現でフレームを形成し、読者を説得していくのかを分析することを目的とする。国民を説得する必要性の高い「憲法改正」を扱った読売新聞と朝日新聞の社説を分析対象とした。これを新聞集整理研究会(1994)が研究報告書において明らかにした読者のための3段階の構成に従って、それぞれのフレームと説得戦略を、言語表現を中心に分析した。その結果は以下のようである。
第一段階では、読売新聞は「やるべきことをしない職務怠慢な憲法審査会」というフレームを作り、速やかな議論の進行を促した。朝日新聞は、憲法改正そのものを批判するキーワードを掲げ、反対意見を強調するかまたは、AI時代やコロナ状況を取り上げて、「今は憲法改正を論じる時ではない」と線を引いた。第二段階においては、読売新聞は「変化は良いもの、変化しない従来の憲法は旧態」というフレームを形成し、それを説得戦略に用いたことがわかった。朝日新聞では、社説の序盤であるリードから批判の対象として、安倍首相を特定とし、読者の視線を改憲ではなく安倍首相に集中させるか、他の重要な状況を具体的に描き、憲法改正に対する読者の関心を他方に向けようとする戦略が見られた。最後に、第3段階は肯定的な意味の単語および表現、否定的な意味の単語および表現が使用された文を集めて分類した。その結果、改憲論議の主体に対する認識、現行憲法と憲法改正に対する認識の面で、両新聞社が大きな違いを見せた。読売新聞は憲法改正論議の主体で「与党は積極的に推進するのに野党が足を引っ張る」というフレームを作り、朝日新聞は首相と与党の一匹狼の姿勢に責任を転嫁した。そして、現行憲法と憲法改正について読売新聞は「現行憲法は息苦しい、打ち砕くべき存在、憲法改正は必要で当然のこと」というフレームを作り、朝日新聞は「憲法改正は利益が全くない必要ない、無視すべきだ」というフレームを作り、読者を説得した。
当然であると見なして分析が等閑視された新聞の言語フィルターとフレームを特定のテーマを持ってミクロに分析し、読者の説得(または煽動)戦略の実体を明らかにした。