1950․60年代の戦後詩を経て、1970年代以降の日本の女性詩には性を扱った作品が多数登場する。その背後には戦後における民主化の流れの中で、女性の社会的な地位の向上が生物学上の性差を克服し、自由な精神を言葉で表す直接の動機となったことを否めない。女性解放の時代メッセージは女性詩人たちに自己主導的な性の描写に集中できる基盤を提供し、時間が立つにつれ、大胆で自由奔放な身体表現と性の認識に繋がっていく。本稿で取り上げた高良留美子や白石かずこといった戦後詩人と、1970․80年代の女性詩の時代を切り開いた井坂洋子と伊藤比呂美の詩には、官能の濃度や性的な語彙の駆使に個人差はあるものの、一貫して女性性の主体的自覚を全面に打ち出している。大事なのは彼女たちの作品が偏狭なエロスの快楽に陥ることなく、性の真の価値と意味合いを見つめていることにある。性を純粋な人間の本能、進んでは生命の本質と捕らえ、その芸術的な完成のためにすべての言語感覚を集中させている点、詩史上の価値はいくら強調しても物足りない。