本稿では、日本が高齢社会に進入して直面した高齢人口問題を社会福祉政策を通して検討し、日本内の社会変化と要求に準じて一つのジャンルに展開していく老人文学の創作とその作品を概観して見ようとする。また日本社会が高齢社会に進入した1995年に発表された佐江衆一の黄落の分析を通じて社会変化による老人認識の転換を解明しようとする。国家と時代を問わず文学作品はその社会を代弁し、それに対応しながら発展してきた。老人文学の創作も社会を投影するジャンルとして、老人を主題に、老人と関係ある、老人問題を中心に展開してきたといえよう。しかし、多数の老人文学の創作にもかかわらず老人文学作品の研究は不足しているのが現実だ。
特に老人文学作品と社会問題、社会福祉問題を連係して研究、分析した事例は指折り数えるところといえよう。さて、本稿では日本の高齢社会問題と老人文学作品を連係して研究、分析することと高齢人口による日本社会の変化、社会問題を考察してそれが文学作品の中でどのように発現されているか、高齢社会以前に創作された老人文学とはどのように違っているかに関して検討しようとした。研究の結果、高齢社会以前の老人文学作品に表現された老人認識と高齢社会期の老人文学作品(黄落)に表れた老人認識は相異なることを見いだし、本稿を通してそれを解明しようとする。文学作品に表れた老人認識の転換と高齢人口問題による社会問題を連係して考察する本稿の研究を通して文学作品の中の老人認識の転換要因を確実にする。