本稿の研究目的は、安倍晋三政権期に発生した官僚制の劣化、つまり官僚制が内閣に忖度する堕落現象が何故発生したのかを明確にするものである。戦後日本の政治過程において官僚制の主導的役割を観察してきたものとしては、政官関係において政治主導が確立したかのように見える官僚制の堕落現象は非常に奇異かつ興味深い現象であった。
政官関係は、政治と官僚の関係を指す言葉であるが、日本では70年代までは「官僚優位」が自明の特質として考えられてきたし、80年代には政治家の影響力増大を指摘した「政治優位」論が登場した。90年代以降は確実な政治主導を目的とした「改革政治」の結果、政官関係において政治主導の確立を可能とする制度的変化が進められた。
変化した制度の下、首相主導の改革を実践したのが小泉純一郎首相であり、それをより強化し官邸主導によって政局を運営したのが2012年に誕生した第2次安倍晋三内閣であった。特に、2014年、内閣人事局の設置を含む国家公務員法を改正し、幹部官僚の人事権を掌握した。このような公務員制度改革の結果が官僚制の堕落現象に繋がったといえるだろう。
安倍政権期に首相や官邸の指導力が発揮されたこと自体を問題視することはできない。政官関係において政治主導が確立されたことが問題だともいえない。ただ、公務員制度改革によって官僚らの自律性が低下し、首相官邸が官僚制を統制することになり、官僚制の日常業務や立法の準備過程において、公文書の改竄や証拠の偽造という官僚制の堕落現象が安倍政権期に集中して発生したことは問題だといわざるを得ない。