本稿は、菊地寛の『好色物語』の中で、第11話「大力物語」を取り上げ、菊地寛がその素材とした説話と比較することで、「大力物語」における改変の様相を分析したものである。菊池寛が『好色物語』において作品名の中の「好色」を追究するあまり、「大力物語」の「大力」を「好色」と置き換える様相を明らかにしようと試みた。 日本の説話集に登場する怪力の女大力は、今まで日本の風俗画、大衆小説、講談、歌舞伎などの素材として取り上げられてきた。菊地寛の「大力物語」に登場する女大力もそのようなケースの一例である。ところが菊地寛の「大力物語」の内容を検討すると、菊地寛が自分の文学的趣向によって、大きく改変していることがわかる。 本稿は『好色物語』の「好色」という概念に注目し、改変の具体的な内容を分析した。「大力物語」に登場する怪力を持った女大力は、あくまでもその「大力」によって人々の注目を集める。言い換えれば、説話集に登場する女大力にまつわる話題は「大力」であり、「好色」ではない。しかしながら菊地寛は、女大力の「怪力」を「好色」(色好み)に置き換えてしまったのである。