本研究は技術史·技術文化論の観点から兵庫県淡路島の伝統産業である線香製造業について検討したものである。淡路島線香製造業の産業史、線香の製造工程の変遷、企業の技術系譜と経営方針を見て線香製造を巡る人と環境、技術との連結性を明らかにするものである。研究方法は、令和2年に実施した淡路島現地調査(Fieldwork)に基づき、現地で入手した近代淡路島の郷土史料を分析した結果を反映する。 研究対象は線香の最大生産地として知られる淡路島の一宮地域だ。 特に、郷土史料である『淡路いちのみやの香り』は1980年代、線香製造の中心地である一宮町教育委員会が郷土史学者の浜岡公子氏に依頼して発刊した地理書である。 最初の香木の漂着地から日本最古の線香の町に生まれ変わった淡路島の歴史と伝統を編年体で記述しており、時代的には香木が伝来した古代から始まり、江戸時代淡路島が香製造を始めた背景や近代的な線香製造工程まで広範囲に盛り込んでいる。 また、この資料はテキストだけでなく、具体的な絵や写真資料まで盛り込んでおり、当時の生活史や技術史を生々しく反映しているという特徴がある。 したがって、日本の近代化を主導した技術史と技術文化論の観点から淡路島の伝統的な土着産業となった香の生活史に対する検討が可能である。 そして最後に淡路島の代表的な線香企業である薫寿堂と線香協同組合の現況および事業化戦略を見て、今後淡路島の線香産業に対するビジョンと展望に代えようと思う。