近代以来、韓国と日本は一夫一婦制をもとに主として血縁家族を堅持してきた。しかし現代に入っては、離婚の増加や晩婚化に伴い、一夫一婦制による「血縁家族」の他に血のつながりのない再婚家族などが出現し多様化している。本稿で取り上げる「母系家族」もそういった変貌する家族形態の一つである。「母系家族」が小説に出てくるのは戦後からである。日本では戦争で夫を失った未亡人による片親家族、そして韓国では1950年の朝鮮戦争後同じ理由での片親家族が小説に描かれる。こうした「母系家族」は戦争など外部からの原因が主であった。しかし、経済開発期の1970年になると性解放ムードに乗って願わぬ妊娠による「未婚母」が増え、さらなる形の「母系家族」が形成される。ところが1980年代からは女性たちの「性の自己決定権」による、自分の意思で「未婚の母」を選択するいわゆる「非婚母」が出現する。本稿ではそうした非婚母を描写している小説の中で、日本の『黙市』と韓国の『遠いあなた』を取り上げ分析を行った。両作品とも非婚母になった背景に「ロマンチック․ラブ」があり、二人の女性は同じく父不在の経験を持っている。そうした情緒的欠陥もあって二人とも既婚男性を恋愛の相手に選択している。しかし彼らには彼女たちが求め合う「真の愛」も持たなければ責任感すらない。しかたなく二人の女性は自らの「母系家族」を作り、たくましく生きることを選択する。